個人事業主として開業するためには開業届をはじめとする各種届出が必要です。その他にも健康保険の手続き、屋号の検討、銀行口座開設、印鑑作成、ホームページ作成、名刺準備、会計ソフト、税理士の顧問契約、など会社では様々な職種で分担していた業務を一人で全てこなす必要があります。
今回は個人事業主の開業に必要な書類と各種手続きをまとめました。開業予定の人はまずこちらのリストをチェックリストとして確認してください。
個人事業主の開業に必要な書類
個人事業主が開業するためには開業届をはじめとする、各種書類の提出が必要不可欠です。基本は開業届だけで開業することができますが、業種や業務の状況によっては他にも提出が必要な書類があります。
開業に必要な書類 | 提出が必要な人 | 提出期限 | 提出先 |
---|---|---|---|
個人事業の開業・廃業等届出書 | 開業する人全員 | 開業日から1か月以内 | 納税地の所轄税務署 |
所得税の青色申告承認申請書 | 青色申告をする人 | 開業日が1月1日~1月15日:3月15日まで 開業日が1月16日以降:開業の日から2か月以内 | 納税地の所轄税務署 |
青色事業専従者給与に関する届出書 | 専従者を雇う人(青色事業専従者給与) | 開業日が1月1日~1月15日:3月15日まで 開業日が1月16日以降:開業の日から2か月以内 | 納税地の所轄税務署 |
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書(※開業届で記載している人は不要) | 従業員を雇う人 | 従業員を雇用した日や、事務所開設から1か月以内 | 給与支払事務所の所轄税務署 |
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書 | 従業員を雇う人 | 随時 | 給与支払事務所の所轄税務署 |
所得税の棚卸資産の評価方法の届出書 | 棚卸資産(在庫)を抱えて商売する人 | 開業年度の確定申告提出期限 | 納税地の所轄税務署 |
所得税の減価償却資産の償却方法の届出書 | 定率法で減価償却したい人 | 開業年度の確定申告提出期限 | 納税地の所轄税務署 |
消費税課税事業者選択届出書 | 課税事業者になることを選択する人 | 開業年度の1月1日から12月31日 | 納税地の所轄税務署 |
個人事業の開業・廃業等届出書
個人事業主として開業したいと思ったときに最低限必要な書類が開業届です。開業届を税務署に提出すると税務署が個人事業主と認識するので確定申告書などの書類が定期的に送られてくるようになります。
開業届は証明のための書類になるので、屋号入りの銀行口座が開設や融資、助成金や補助金の申請等に使うことができます。
関連記事:開業届の書き方
所得税の青色申告承認申請書
個人事業主として開業する大きなメリットの一つが青色申告をして65万円の特別控除を受けることができる点です。
青色申告特別控除は事業所得や不動産所得に適用することができますが、開業せずに雑所得のままで収入を得ているとメリットを受けることができません。ぜひ開業届と合わせて青色申告承認申請書も提出していしまいましょう。
関連記事:青色申告承認申請書の書き方
青色事業専従者給与に関する届出書
配偶者や親族等(専従者)に給与を支払う場合、通常は経費に計上できませんが、青色事業専従者給与に関する届出書を提出すると経費計上することが可能になります。条件次第では節税効果もあるので、青色事業専従者給与を検討してみてください。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書
家族や家族以外の従業員を一人でも雇う場合は届出が必要です。開業のタイミングであれば開業届に記載するだけで、給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書は提出不要です。
開業当初は従業員を雇う予定がないため開業届に給与支払について記載せずに提出した場合は、従業員を雇用する前後で給与支払事務所等の開設・移転・廃止届出書を提出してください。
源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
源泉徴収義務者に該当する場合は給与を支払った翌日10日までに毎月源泉徴収した所得税と復興特別所得税を納税する義務があります。
特例に該当する個人事業主は、源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書を提出することで、本来毎月納税しないところを半年分まとめて納税することができます。
所得税の棚卸資産の評価方法の届出書
棚卸資産(原材料、仕掛品、半製品、製品、商品)を扱う個人事業主の場合、原価法や低価法などの中から棚卸資産の評価方法を選定して毎年同じ評価方法であることを定める必要があります。
評価方法を変えると利益額が変わってしまうため、一度定めた評価方法は別途変更届を提出して受理されないといけません。
所得税の減価償却資産の償却方法の届出書
通常個人事業主が固定資産を減価償却する場合、償却方法は定額法(毎年一定額ずつ償却)になります。所得税の減価償却資産の償却方法の届出書を提出することで定率法(毎年一定率ずつ償却)を選択することができます。
定率法は定額法と比べて経費計上できる額が初年度に寄るため、早めに経費計上したい人におすすめです。ただし、償却の総額は変わりません。
消費税課税事業者選択届出書
個人事業主の消費税の課税形式は免税事業者と課税事業者の2つの形式があります。免税事業者は規模が小さい事業者に対して手間がかかる消費税計算と納税を免除するという目的で存在する課税形式で、課税売上高(消費税を除いた売上)が1,000万円以下の事業主限定となります。
消費税課税事業者選択届出書を提出するとあえて課税事業者になることができますが、基本的には納税が増えるのでデメリットが大きい選択になります。
個人事業主の開業の手続き・流れ
書類提出とそれ以外の個人事業主の開業の手続きと流れを必須と任意に分けてまとめました。業種問わず一般的に広く必要とされる手続きなので自分が該当するかしないかチェックしておきましょう。
[必須]開業届や各種書類の提出
上記にまとめた各種開業に必要な書類を提出することが必要です。個人事業主の開業に必要な手続きは書類の提出が終われば90%は完了です。個人事業主になると書類の保管も自分で全てやらないといけません。
書類は毎回控えを取ることを徹底し、保管用のバインダーを購入すること、PDF保管用のgoogleドライブなどクラウドストレージをアカウント登録してフォルダ作成をしておくことなどを合わせて準備しましょう。
[必須]健康保険の手続き
サラリーマン(会社員)の方が個人事業主になる場合は会社員時代に入っていた健康保険組合を任意継続とするか、国民健康保険のいずれかに加入する義務があります。
人によって違うので必ず計算が必要ですが、一般的には国民健康保険よりも会社員として加入していた健康保険組合のほうが保険料が安くなる場合が多いです。
[任意]屋号の検討
法人の会社名と同じように、個人事業主は屋号を定めることができます。屋号は必須ではないですが、店舗経営型の事業主はお店の名前が必要になってくるので屋号を考えておきましょう。
[任意]銀行口座の開設・事業用クレジットカードの準備
個人事業主はビジネスとプライベートのお金の流れを完全に分けることが必須ではないため既存のプライベート口座やクレジットカードを使い続けることもできます。
とはいえ、事業用の銀行口座やクレジットカードを用意しておくと数字の把握が楽になるので、準備できる人は準備しましょう。屋号がある人は屋号入りの名義で銀行口座を開設することができます。
[任意]ホームページの作成
個人事業主は営業活動も自分でやる必要があります。店舗経営の個人事業主はお店のホームページを、フリーランスのエンジニアやデザイナーはポートフォリオや自身の専門領域の記事の執筆など、ホームページにコンテンツを増やすことが営業活動とも言えます。
[任意]会計ソフトの登録・税理士への依頼
個人事業主は本業の経営や営業活動だけでなく経理など管理業務もこなす必要があります。従業員を雇っている人は給与を決定したり人事も兼務します。貴重な時間は有限なので自動仕訳で手間を短縮できるクラウド会計ソフトの登録、または領収書を丸投げする税理士への依頼をしましょう。
[任意]名刺の作成
法人と比べて社会的信用力が低くなりがちな個人事業主なので、できるだけ名刺も準備しましょう。お店やホームページなどを記載しておけば営業ツールの一つにもなるメリットがあります。
[任意]印鑑作成
個人事業主は個人の印鑑がそのまま使えます。屋号を登録した人は屋号入りの印鑑を作成しましょう。INKANS.COMのような印鑑専門のネットショップが安くて手間がかからないのでおすすめです。