結論から書くと、サラリーマンの副業が雑所得と事業所得のいずれに該当するか、明確なルールはありません。
事業所得に該当するかどうかは以下の7点をポイントに、一般常識の範囲で「一定の事業リスクが存在する状況において営利を目的として対価を得て継続的に行う経済活動であるかどうか」で判断されることになります。
- 営利性・有償性の有無
- 継続性・反復性の有無
- 自己の危険と計算における事業遂行性の有無
- 取引に費やした精神的・肉体的労力の程度
- 人的・物的設備の有無
- 取引の目的
- 事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況
事業所得と雑所得の違い
まず、事業所得と雑所得の違いをまとめました。事業所得は雑所得に比べて節税効果が高い青色申告を選択できるため、青色申告のメリットがそのまま事業所得のメリットと言えます。
つまり、サラリーマンの副業とはいえ、なるべく雑所得ではなく事業所得を選択したほうが節税効果が高まります。
比較項目 | 事業所得 | 雑所得 |
---|---|---|
具体例 | 製造業、卸売業、小売業、サービス業、農業、漁業、などの事業から得る収入 | 上記9種類のいずれにも該当しない所得。ビットコイン(仮想通貨)の売却益、ソーシャルレンディング、副業サラリーマンのアフィリエイトやメルカリなどせどりの収入、ハンドメイド作品の販売など |
損益通算 | 事業所得が赤字の場合は他の所得区分の所得と相殺可能 | 雑所得が赤字の場合は他の所得区分とは相殺できない |
青色申告特別控除 | 青色申告をすると、10万円若しくは65万円の青色申告特別控除が使える | 青色申告はできず、白色申告となる。控除は特になし |
専従者給与 | 青色申告者の親族等の給与が全額経費 | 金額固定の専従者控除が使えるが基本的には青色申告の専従者給与より節税効果が薄い |
赤字の繰り越し | 赤字を出してしまった年度の損失額を翌年以降に繰り越して、翌年以降の黒字と相殺できる | 赤字の繰り越しはできない |
少額減価償却資産の取得価額の損金算入の特例 | 青色申告は特例により30万円未満の消耗品は一括経費計上が可能 | 白色申告は特例対象外のため、10万円未満の消耗品までが一括経費計上可能 |
節税など他のポイントも含めて比較の詳細は白色申告と青色申告の違いにまとめています。
事業所得か雑所得かを判断するための過去事例
日本には税金の徴収に不服がある場合に異議申し立てをするための「国税不服審判所」という機関があり、過去事例を見ることでどのような判断がなされたかを参考にすることができます。
以下に、事業所得が認められず不動産所得となった事例を参考に、事業所得としてみとめられる条件を抜粋しました。
事業とは、自己の計算と危険において営利を目的として対価を得て継続的に行う経済活動のことであると一般に解されるが、事業であるか否かの基準は必ずしも明確ではなく、その事業概念は、最終的には社会通念に従ってこれを判断するほかはないというべきである。
事業に該当するか否かは、1営利性・有償性の有無、2継続性・反復性の有無、3自己の危険と計算における事業遂行性の有無、4取引に費やした精神的・肉体的労力の程度、5人的・物的設備の有無、6取引の目的、7事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況などの諸点を総合して、社会通念上事業といい得るか否かによって判断するのが相当と解される。
この事例についてのそれぞれのポイントの判定は以下のとおりです。この結果、営利性や継続性はあるが、同族への貸付はそもそも事業リスクや通常の事業の場合に発生する手間等が実質的に低いため、社会通念上事業とは言えない、という判断が下っています。
判断ポイント | 判定 |
---|---|
営利性・有償性の有無 | 〇年間の賃料収入がある程度担保されているため営利性がある |
継続性・反復性の有無 | 〇継続的に貸付されている |
自己の危険と計算における事業遂行性の有無 | ×同族への貸付であるため事業リスクがない |
取引に費やした精神的・肉体的労力の程度 | ×本来賃貸における賃料交渉や改定といった手間が実質的に低い |
人的・物的設備の有無 | 〇賃貸として必要な設備が存在している |
取引の目的 | △同族への貸付 |
事業を営む者の職歴・社会的地位・生活状況 | △代表取締役、賃貸収入が約半分 |
つまり、身内に対する売上など「体制が整っていて継続的に売上があったとしても本来事業を営むにおいて存在すべき労力や不確定要素がないと事業所得にはできない」ことになります。
このように、普通に事業を行っている個人事業主と比べたときに上記の7ポイントが大きく逸脱しているような場合は事業所得にはできないと言えます。ただし、結局は税務署の判断になるので、正確な判断は納税先の税務署や税理士に問い合わせましょう。
また、国税庁のタックスアンサーNo.1906 給与所得者がネットオークション等により副収入を得た場合に、一般的には雑所得になる事例も記載されています。
過去にサラリーマンに架空の事業をつくらせて事業所得で赤字を計上し、節税(脱税)させるコンサルタントが逮捕された事件がありましたが、「生活できる水準の利益が上がっていること=合理的な理由なく赤字を計上し続けていないこと」も一つの大きな判断ポイントになりそうです。
そもそもサラリーマンは本業があるので時間の確保が難しく、まとまった売上を立てることも難しいので事業所得で申告するにはそれなりにハードルが高いものと考えたほうがよいでしょう。事業所得が小さく赤字を計上して給与所得と損益通算しているような場合は誰が見ても合理的な理由が必要になりそうです。
繰り返しになりますが、結局は税務署の判断になるので、正確な判断は納税先の税務署や税理士に問い合わせましょう。
【補足】開業届を出せばサラリーマンの副業は事業所得になるのか?
開業届の提出有無は事業所得と雑所得の所得区分を判断するポイントに含まれていません。過去事例では、あくまでも実態が重視されています。営利性・有償性の有無などポイント7点をよく考えてみてください。
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