開業届の「職業欄」は、単なる事務的な項目ではありません。記載内容によって、将来支払う「個人事業税」の税率(0%〜5%)が決定される重要な項目です。
結論から言えば、実態に即しつつ、法定業種に該当するかどうかを慎重に判断して記載することが、最も賢い書き方です。本記事では、フリーランスが迷いやすい職業欄の具体例から、税金で損をしないための選定基準まで、簡潔に解説します。
【まとめ】職業欄の記載が「納税額」を左右する
開業届の職業欄を適当に埋めてはいけません。理由は以下の3点に集約されます。
- 個人事業税の判定基準: 職業によって税率(3〜5%)が異なり、そもそも課税されない業種(文筆業など)もある。
- 公的な証明: 銀行口座開設や住宅ローンの審査時、職業欄の記載が「何をしている人か」の証明になる。
- 総務省の分類が基本: 迷った際は「日本標準産業分類」を参考にしつつ、実態を反映させる。
なぜ開業届の「職業欄」で迷うのか?その重要性
多くのフリーランスが職業欄で立ち止まるのは、自身の業務が多岐にわたるため、一言で表しにくいからです。しかし、ここで最も注意すべきは「個人事業税との関係です。
個人事業税とは
所得(利益)が年間290万円を超えた際に発生する地方税です。職業によって以下の3つの区分に分かれます。
| 区分 | 税率 | 主な対象職業 |
|---|---|---|
| 第1種事業 | 5% | 物品販売業、飲食店業、広告業、請負業など37業種 |
| 第2種事業 | 4% | 畜産業、水産業など3業種 |
| 第3種事業 | 5% | 医者、弁護士、コンサルタント、デザイン業など28業種 |
| 非課税(法定外) | 0% | 文筆業、漫画家、芸術家、プログラマーなど |
※自治体によって判断が分かれる場合があります。
【職種別】フリーランスの職業欄・書き方具体例
よくあるフリーランスの職種について、推奨される記載例と事業税の観点からの注意点をまとめました。
ライター・ブロガー・編集者
記載例: 「文筆業」「ライター」「編集業」
ポイント: 「文筆業」は法定業種に含まれないため、原則として個人事業税が非課税になります。ただし、「広告業」や「請負業」とみなされると5%課税される可能性があるため、実態が執筆であれば「文筆業」と書くのが一般的です。
ITエンジニア・プログラマー
記載例: 「システムエンジニア」「プログラマー」「ソフトウエア開発」
ポイント: エンジニアも現在の税制では法定業種に明記されておらず、非課税とされるケースが多いです。ただし、常駐先での「請負」の実態が強いと判断されると課税対象になる場合があります。
デザイナー・イラストレーター
記載例: 「グラフィックデザイン」「イラストレーター」
ポイント: 「デザイン業」は第3種事業(5%)に該当します。イラストレーターの場合、「芸術家」に近い実態であれば非課税とされる可能性もありますが、商業デザインが主ならデザイン業となります。
コンサルタント
記載例: 「経営コンサルタント」「ITコンサルタント」
ポイント: コンサルタント業は第3種事業(5%)に該当します。
動画編集・YouTuber
記載例: 「動画制作業」「映像編集業」「広告業」
ポイント: 映像制作は「請負業」や「広告業」とみなされやすく、基本的には5%の課税対象となる可能性が高いです。
複数の仕事をしている場合の書き方
「ライターもやりつつ、デザインも受けている」という場合は、以下のルールに従います。
- メインの収入源を先に書く: 「文筆業、グラフィックデザイン」のように併記します。
- 事業税の判定: 複数の職業を書いた場合、主たる事業(売上が大きい方)で判定されることが多いですが、自治体によってはそれぞれの所得を按分して計算する場合もあります。
職業欄で損をしないための3つのチェックポイント
①「日本標準産業分類」を確認する
総務省が定義している「日本標準産業分類」を検索し、自分の仕事がどれに該当するか確認しましょう。税務署の職員もこの分類を参考にします。
②事業税の「非課税」を意識しすぎない
節税のために実態と異なる「文筆業」と記載しても、確定申告の内容(支払調書の発行元や経費の内容)から実態が「広告業」だと判断されれば、後から修正(追徴)を求められることがあります。あくまで実態が優先されます。
③「屋号」との整合性
職業欄と、一緒に登録する「屋号」に関連性を持たせると、銀行口座開設時の審査がスムーズになります。 例:屋号「〇〇ITソリューション」→ 職業「システム開発」
よくある質問(FAQ)
Q. 「フリーランス」と書いてもいいですか?
A. NGです。 フリーランスは働き方の形態を指す言葉であり、職業名ではありません。税務署は「何をして稼いでいるか」を知る必要があるため、具体的な職種を記載してください。
Q. 職業欄を間違えて提出してしまったら?
A. 次回の確定申告で修正可能です。 開業届を出し直す必要はありません。確定申告書の「事業種目」欄に正しい職業を記載することで、実務上の職業データは更新されます。
Q. 職業欄を空欄で出すとどうなりますか?
A. 受理されないか、後で問い合わせが来ます。 税目(事業税)の判定ができないため、必ず記入を求められます。
「事業内容」欄の書き方
開業届には「職業欄」とは別に「事業の内容」という広い記入欄があります。ここでは、職業欄で書ききれなかった具体的な業務内容を補足します。
- 書き方のコツ: 「誰に」「何を」「どのように提供するか」を簡潔に書く。
- 例(エンジニア): 「Webシステムの設計・開発および保守管理、IT導入に関するコンサルティング業務」
このように具体的に書くことで、税務署側も業種判定がしやすくなり、不必要な問い合わせを防げます。
結論:迷ったら「具体的」かつ「標準的」な名称を
開業届の職業欄は、以下の3ステップで決定しましょう。
- 自分の業務内容を書き出す。
- 日本標準産業分類で近い名称を探す。
- その名称が個人事業税の「法定業種」に該当するか確認する。
「文筆業」や「エンジニア」のように非課税枠に該当する可能性があるなら、実態が伴う範囲でその用語を使用するのが最も賢明な判断です。
